Salamone & Correa "The Mysterious Motivational Functions of Mesolimbic Dopamine" (Neuron, 2012)


 おれたちのメカラットが帰ってきたッ! JNSのときとまったくおなじ絵だけれども、これがほんまのサイバーローデントや! と興奮したのでお久しぶりの更新です。今年二回目か……なんか広告ついちゃってうざったいなー。レビューなんか読みますよ。

 側坐核で放出されるドーパミンのはたらきについてまとめた論文。わー心理のひと〜ってかんじです。

    • Mesolimbic DA and Motivation: The Changing Theoretical Landscape

 人間って神話の時代から、ばらばらの出来事を適当にむすびつけて、都合のいいお話しをつくるのが得意ですよね、ドパミンに関してもそんなふうに考えていた時期が私たちにもありました……RewardだとかAnhedoniaだとか、耳触りの良い惹句についつい飛びついちゃったんです……という反省から始まって、けどまあこの十年でけっこうちゃんと腑分けされてきましたね、という。Habit formationにHedoniaにAddiction、ことばの意味もちゃんと定義しとかなきゃなんない。

    • Motivetional Processes: Historical and Conceptual Backgroung

 まだあんましドパミン関係ないけれども、とりあえずモチベーションって何や、と言葉の問題から入っていくのはなかなか良いです。まずはショーペンハウアーの定義から。

"choose, seize, and even seek out the means of satisfaction" (Schopenhauer, 1999)

"the process of arousing actions, sustaining the activity in progress and regulating the pattern of activity" (Young, 1961)

"the set of processes through which organisms regulate the probability, proximity and availability of stimuli" (Salamone, 1992)

"the behaviorally-relevant processes that enable organisms to regulate both their external and internal environment" (Salamone, 2010)

 まあいろいろ。行動心理のひとが多いってのもあるけれど、行動と密接に関係するものなのね。満足や快適を得るために、なにかに向かい(あるいは逆に離れ)、目的達成までその状態を制御すること。で、そのために時間的、物理的コストを乗り越えなきゃいけない。関連用語というかいろいろ言い換えることができて、それが表にまとめてあります。

Appetitive vs Consummatory (Craig, 1918), Preparatory (Blackburn et al, 1989), Anticipatory (Ikemoto and Panksepp, 1996), Instrumental (Salamone, 1992), Seeking and Taking (Foltin, 2001; Czachowski et al, 2002), Activational vs Directional (Cofer & Appley, 1964; Salamone, 1988), Wanting vs Liking (Berridge, 1996, 2007)

 はあ、多すぎ……WantingとLikingくらいしか知らへんだわ。TakingとSeeking、ActivationalとDirectionalのちがいは重要っぽい。なにがちがうのかさっぱりわからんけど。←SeekingはInstrumental phase、つまりApproachingとかで、こちらが側坐核ドパミン依存、TakingはCunsummatory phaseでAppetiteとかPreference、こちらはドパミン関係なし。次の章でくわしくやります。

 んで、いちばんおもしろかったのが、‘Motivation'も‘Movement'も、おなじラテン語‘Movere'由来だってこと*1。なんかが動くっていう意味で、「外へ」を表す接頭語‘e-'をくっつけると‘Emotion'になる。感情を外側へ動かすってことね。前にうごけばPromote、元の状態にうごかすことがRemove。おおお。

    • Dissociative Nature of the Effects of Interfering with Nucleus Accumbens DA Transmission

 ことばの話しはまだつづく。次はRewardについてです。ひとによってReinforcerであったりPrimary motivationであったりAppetite、Pleasure、はたまたHedonia……いろいろ意味がありすぎて逆に無意味になってるね、だいたい側坐核ドパミン系をReward systemとかゆっちゃうと、Aversive motivationが過小評価されちゃうし。あかんで。

 てことでことばの話しはここまでで、以降は具体的にAccumbens DAの働きについてつらつらと。とはいえまとめ以上のものではないですね。Fig. 1にまとめられているように、Instrumental phaseであってConsummatory phaseでない、つまり、側坐核ドパミンを減らしたりブロックしたりしても、飲んだり食べたりする量は変わらんし嗜好もおなじ、そのかわりBehavioral activation……英語のままで並べますけど、exertion of effort, Pavlovian to instrumental transfer, flexible approach behavior, energy expenditure and regulation, exploitation of reward learningなんかに効く。具体的には、大報酬のためにレバーを何度も押したり(FR1のときは意味なし)、Tメイズで坂道があっても大報酬のほうをえらんだりするのに働いているらしいです。嗜好性や摂取量なんかに影響するのはフェンフルラミン(SSRI)やカンナビノイド系。ただし、物理的コストはいいとして、時間的コストのからむ実験ではまだ結果があいまいらしい。それにしてもアンフェタミンハロペリドールなんかの薬物はもちろん、受容体ノックダウンとかいろいろとドパミンをコントロールするやり方はいろいろあるもんだなあ、と改めて。

    • Involvement of Mesolimbic DA in Appetitive Motivation: Dynamic Activity of DA Systems

とまあコントロールする方法はいろいろあるけど、何をコントロールしているの? てのがよく分からんわけです。受容体はD1、D2、いろいろあるし、ドパミンの発火もPhasicな成分とTonicな成分があって、それぞれ別の働きをしているはずなんだし。そのへんも最近だんだんわかってきました。古くは80年代から(Nishio et al, 1987)、たくさんの人が電気生理やらボルタメトリーやらマイクロダイアリシスやらc-Fos・DARPP-32発現やらで様々な時間・空間分解能でドパミン活動を見てきたわけで、最近の光遺伝学の成果も含めて、知識は積み上がっているのよ。だいたい皆さん知ってるでしょうから省略するけど(強化学習なんかさらっと触れる程度なのがすばらしい)、ここ数年の知見だと、線条体のコリン作動性介在細胞とのPhasicな同時発火で、ニコチン受容体依存的にドパミン放出が調節されるってことなんかがわかってきてる(Rice et al, 2011; Threlfell et al, 2012; Surmeier & Graybiel, 2012)。あとSegovia et al (2011, 2012)とGrieder et al (2012)の話しはよくわかんなかったので、原典をあたること。はい次。

    • Involvement of Mesolimbic and Neostriatal Mechanisms in Appetitive Instrumental Learning

 えっ、また概念の話題ですか。ホメオスタシスやアロスタシス、エモーションやコグニション、ラーニング・レインフォースメント・センセーションやモーターファンクションにモチベーションはどう関わるのでしょうか……なんか、いろいろゆってるわりにはぜんぜんまとまる気配がないぞ……。この節ではオペラント反応とドパミンを扱います。ますが、なんかあんまし関係なさそう……リージョンしてもreinforcer devaluationにもcontingency degradationにも影響ないっぽいし(そっちはDorsomedial neostriatumだっていう。Yin et al, 2005)。オプトジェネティクスでVTAのドパミン細胞を興奮させると、それ自身はレバー押しの強化子たり得たり摂食量を増やしたりはしないけれども、ペレットがもらえるレバー押しを増やしたりする?(Adamantidis et al, 2011) へ? ちょっとよくわかんなくなってきましたが、とにかく行動そのものにはクリティカルに効いてこないってことでいいのかな。

    • Involvement of Mesolimbic DA in Aversive Motivation and Learning: Dynamic Activity of DA Systems

 ようやくAversiveのトピックです。ドパミンっちゅと報酬のことばかり取り沙汰されがちだけれども、むかしから、電気ショックやしっぽつまみ、拘束ストレス、嫌悪予告刺激、嫌悪薬、競争での敗北なんかでドパミンが放出されるっていうのはマイクロダイアリシス実験で確かめられてるし、電気生理実験でもそれを支持する報告がある(ただし、すべてのドパミン細胞が同様の活動をするわけじゃないことに注意)。行動表現にかんしても、Aversive motivated behavior……Avoidance, Place aversion, Taste aversion, Fear conditioningなどがドパミンで制御されているっぽいし、ヒトであっても、PTSDなんかには関係ありそうですねえ、fMRI実験でだって、電気ショックや熱刺激を与えたときと、金銭的損失があったときで、同じように腹側線条体が光ってる。まあなんかあるんでしょうね。てかこれで終わりなんですかね……って、うわ、サマリー長。

    • Summary and Conclusions

 まとめです。Fig. 2に示されているように、側坐核ドパミンは、Low effortよりHigh effort、CunsummarotyよりInstrumental、USよりCSの処理に影響する(それらの軸は独立してはいないだろうけど)。繰り返しになりますけども、強く影響するのはBehavioral activation, Exertion of effort, Cue instigated approach, Event prediction, Pavlovian processes (Pavlovian approach & Pavlovian to instrumental transfer), aversive motivationで、あまり関係なさそうなのがHedonic reactivity to taste, Primary food motivation, Appetite, Association between the instrumental action and the reinforcing outcome、などなどなど。あっ、"tap into the functions〜 "っていいまわしが格好いいのでパクりたい。あとは背側線条体とのちがいとか。あっちもチャンキングでHabit形成で、とまたいろいろあってめんどうくさい。

 まあなんだ、結論としては、ゴールやPrimary motivational stimuliまでの心理学的距離(物理的距離、時間、確率、労働)を乗り越えるための、辺縁系から運動系へのGatingっちゅかThresholdingっちゅかFilteringっちゅかAmplifierっちゅか、そういうもんなのでしょうねっていう。こういうのがイントロでゆってた牽強付会じゃないって可能性もなくはないけど。

    • Translational and Clinical Implications

 おまけで、ヒトのfMRI実験なんかの結果ともよく合致しますねってのと、神経疾患なんかのことをすこし。Hyperarousal, Irritability, Fatigue, Apathy, Anergia, Avolition, Infectious or Inflammatory diseaseとかね。はいおわり。あんまりかしこくなった気がしませんね!

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 引用されてるけど、AversiveはNAcじゃなくてMPCにいってるって話しじゃないの。

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 Core / Shellの区別以上に、側坐核の細胞にもいろいろあるんだろうなーっていう。

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 それにドパミンだけじゃなく、皮質や海馬、扁桃体なんかからのグルタミン酸性入力もあるのだし。ところで筆頭著者のひと、ジョナサン・ブリットって名前が格好いいですね。

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 そんで今んとこいちばん新しい報告がこちらになります。ほら、アブスト読んでみても、そもそも課題がめんどくさいし、結論だって"NAc DA encodes integrated signals about reward rates, uncertainty, and choice, reflecting implementation of decision policies."とかゆっててワケわかんないでしょう。そりゃまとめたくなるわなー。