Sato TK, Häusser M, Carandini M, "Distal connectivity causes summation and division across mouse visual cortex" (Nat Neurosci. 2014 Jan;17(1):30-2)

Abstract
Neurons in different locations across the cortex are connected through polysynaptic networks involving both excitation and inhibition. To probe the functional effect of such networks, we used optogenetic stimulation to trigger antidromic spikes in a local region of primary visual cortex (V1). This local activity had two effects at distal V1 locations: summation and division. The balance between the two depended on visual contrast, and a normalization model precisely captured these effects.

 視覚のこととかよーわからんし読みづらいので一段落ずつなんとか理解してゆきたい……たった3ページだってのに、何やこのエニグマティックな論文は……。

  • 大脳皮質一次視覚野(V1)の神経細胞は隣接する細胞からだけでなく、V1内の水平結合や高次視覚野からのフィードバック結合などを介して、離れた部位からの情報入力を受ける。このような神経ネットワークは複数のシナプスを介し、また興奮性/抑制性の入力が混在するため、全体としての働きはまだよく分かっていなかった。そこで著者らは光遺伝学的手法をもちいてV1内の神経結合の因果性、また神経活動の文脈依存性をしらべた。イントロここまで。
  • 神経活動を確実に局所的に引き起こすため、光遺伝学的逆行性刺激をおこなった。子宮内電気穿孔法を使い、マウス片半球V1の2/3層だけにチャネルロドプシン2(ChR2)遺伝子を発現させた(ここまではPetreanu et al, NN2007とおなじ)。反対側のCallosal neuron(脳梁を通って軸索投射しているニューロン)をレーザー刺激したところ、V1の両眼応答性部位(BZ、binocular zone)において、最初2/3層の細胞で、そのあと5層の細胞で神経放電がみられた。後者はグルタミン酸受容体のブロッカー注入で消失したので、前者が直接刺激された神経細胞だといえる。ここまでまだ準備みたいなもんや。
  • 麻酔下(この後もずっと)でレーザー刺激すると、逆行性刺激されたBZから直接入力をうける単眼性応答部位(MZ、monocular zone)において、BZから遠い部位で遅れて弱い活動がみられる。LFPを測ってみると、この活動は垂直方向の視覚刺激を見せたときより強くシャープだった(視覚刺激ではスパイク発火には至らない)。これって4層の話ってことでいいんだよね? このあとも。
  • 次に視覚刺激(ホワイトノイズ)も同時に行いました(Fig.2)。ちょっと興奮するやつ(Fig.2e)もいたけれど、視覚刺激のコントラストを上げるとどの部位でも抑制がみられ、コントラストが高いほど抑制が大きい傾向があった。単一細胞でみてもその傾向は変わらない。
  • ところで興奮応答はBZ、MZどちらでも見られたのだけれども、抑制応答はMZだけ……特に遠位のMZでよく観察された。つまり抑制応答は視覚刺激によって直接駆動せしめられる部位でのみ起こるのだ。ちなみにレーザーの後、遅れて視覚刺激を行うと、興奮応答しか起こりませんでした(Fig.S7)。なんでこのときはバー刺激?
  • 以上のコントラスト依存的なMZの活動を記述するために伝家の宝刀、カランディニのDivisive normalizationモデルが抜かれます。
  • このモデルがいかに素晴らしいかが語られる。変数pだけでこんなにも!
  • さらにさらに、このモデルはレーザー刺激強度の影響も変数λだけで説明できる。まあ他のモデル出してないのでへえそうですかってなもんですけども。リザルトここまで。
  • 以上の結果をまとめると、遠位からの皮質内神経結合の影響は、感覚刺激の強度依存的であることが、機能性・因果関係のレベルでちゃんとわかりました。具体的には、感覚刺激による影響が小さいときには加算的に、大きいときには除法的に、中くらいのときには両方、単純な標準化モデルで説明できるような影響があらわれる(にほんごむずかしい)。
  • V1内神経連絡の文脈依存性を今までわからなかったレベルで解き明かしましたよ。
  • オプト逆行性刺激というわれわれの手法は画期的であり、特に双方向性の結合に富む領域で力を発揮する。すごいだろう。オプトだから順行性スパイクで鈍ることもないしな。
  • えっへん。

 以上です。みじかい論文は情報が少ないのではなくて、そのぶん圧縮されているので、行間を読むちからというか、前提となる知識がないと、どーにもこーにも歯が立たんのんな……名著をよんで勉強するのん……。

脳と視覚―何をどう見るか (ブレインサイエンス・シリーズ 14)

脳と視覚―何をどう見るか (ブレインサイエンス・シリーズ 14)

 けっこうおもしろいぞ。ていうかね、ネズミには中心窩がない(というか哺乳類でフォビアもってんのは霊長類だけ)とか、視交叉で9割が反対側いくとか、そういうとこから知らなんだからね。

 1950年代末のヒューベル&ウィーゼルから、解剖学的なとこまでいちいち解説してくれててほんと助かる。V1は6層まであってニューロンはそれぞれ興奮性の有棘細胞と無棘細胞、有棘細胞は星状細胞と錐体細胞とがあって前者が入力層である4層に、後者が2/3層に。星状細胞は単純型細胞、錐体細胞は複雑型細胞または超複雑型細胞。無棘細胞は少なくとも19種類あるらしいんだけど、今はもっと増えてんだろうか? まあとにかく役者はたくさんいるってことです。

 LGNからの入力はPチャネル、Mチャネル、Kチャネルとあって、Pチャネルが線・境界・色の情報を4Cβ層に、Mチャネルが動きの情報を4Cα層に、Kチャネルがなんかよくわからん情報(色や形態)を2/3層のブロッブに直接はこびます。他にも入力は前脳基底部(BF)からのアセチルコリン性投射、青斑核からのノルアドレナリン性投射、背側縫線核からのセロトニン性投射なんかもあるのね。ちなみにV1内ではグルタミン酸とGABAで上げたり下げたりしています。いっぽう出力をみてみると、6層からLGNへのフィードバック投射、5層は2/3層から入力を受けて上丘や視床枕に、あと2/3層からV2へいくやつと、4B層からV2、V3、MTへ行くやつがあるようです。簡単に紹介してこんなになので、じっさいもっとあるんだろうなー。

 以上が8章ね。9章ではV1の特徴抽出性として、方位選択性、方向選択性、空間周波数選択性、視差選択性、色選択性についてふれています。方位と方向はちがったのか! OrientationとDirection。後者は運動選択性といったほうが誤解が無いように思えます。そんでそのような選択性を実現する機能的コラム構造の配列について……眼優位性コラム、方位コラム、ブロッブなんかの構造についていろいろと。ほんと、V1理解の進歩は技術の進歩と平行してんのな。電極法からシトクロム染色、2-DC法、放射線アミノ酸による標識法、そして工学計測法……ここにきて佐藤さんのオプトジェネティクスがようやく繋がったかんじですね。やれやれ。

 さて10章にきてようやくV1内ネットワークの話になる。まず水平結合が似たような選択性をもつコラム間をつなぐ……という単純なものでもなくて、興奮性結合と抑制性の結合で、また結合の距離によっても様相がことなり、なんかうまいことやって(忘れた)、刺激文脈依存的な応答をみせているのだ。背景刺激に影響されたりね……まあそれはV1内部だけでやってることではなくて、MTとか高次の視覚野からのフィードバック入力もあるからなんだけど。つまりV1だけ見ててもやっぱり分かった気にならんという。はあ。まあいいや、勉強ここまで!

 あといろいろ参考文献。でもやっぱ本読んだほうがええわ。ネットDE真実よろしくない。

 へえ、マーモセットのV1に眼優位性コラムあるかどうかすら、判るのに2013年まで待たなきゃいけなかったのか。なんでやろ。あとねー、

 この記事けっこうおもしろかったよ。アイ・オブ・ザ・マウス。Cris Niellたちなんて、ヒューベルウィーゼルがネコやサルでやったことをネズミでやっただけ。その点Matteo Carandiniは……というはなし。進化的にはネズミのがネコよりヒトに近いってほんとかな。

 そんなとこかな。そうそう、ヒューベルさんもウィーゼルさんもまだ生きてはるんですね。神経科学なんて、まだひと世代くらいのものなんね。