Enomoto et al. "Dopamine neurons learn to encode the long-term value of multiple future rewards" (PNAS. 2011)

 ふうん。

 ところでPNASって、どう発音するのがいいのかな。「ぴーなす」っていうと、なんか男性器のようだし、「ぴーえぬえーえす」だとPMSみたい。かといって、「ぷろなす」はPLoS Biologyだと誤解されるおそれがある……。

 まあいいや。プレスリリースはこれかな。

 サルであっても、ちゃんと学習をしたならば、朝三暮四の故事みたいに一喜一憂しないってことか。とはいえ、報酬の時間割引なんかもかんがみれば、朝三暮四のサルってぜんぜん正しくふるまってるよね。あ、論文はオープンアクセスになっているので、読んでみるといいですよ。

Yoshida et al. "Representation of others' action by neurons in monkey medial frontal cortex" (Curr Biol. 2011)

 人の振り見てなんとやら……ううん、他人の不幸はなんとやらの仕事*1といい、ねえ、ことわざシリーズもそろそろ飽きてきませんか。

 ミラーニューロンだけじゃじぶんと他人の区別つかないじゃん、という。他者の行動だけを選択的に表現することで、心の理論やメンタライジング、フィクティブな情報の処理ができて、高度な社会性を実現するものだからね。ひとのことばっかり気にしてるだけのひともいますけど!


Methods

 ニ試行ごとにActorとObserverが交代する二択課題。成功も失敗も二頭道づれ。Actorが行動しているとき、Observerはスタートボタンを押しつづける。5〜17試行で、予告なしに報酬と連合したターゲットの色が切りかわる。切りかわってないのに報酬と連合している色を間違えるのがタイプ1のエラーで、連合が切りかわったために間違える不可避なエラーがタイプ2のエラー。Actorのエラーがどちらであっても、Observerは、その直後にじぶんがActorになった試行において高確率で成功できる……つまり、相手のエラーがどちらのタイプか判断して、その情報をもちいて自分の行動を決めている。細胞記録部位は両側の前頭葉内側領域(MPC)から、補足運動野(SMA)と前補足運動野(pre-SMA)をふくむ弓隆部(MFC convexity)と、帯状皮質運動野の背側領域をふくむ裂溝部。神経活動データは四次元の分散分析(agent, target-location, target-color, rank order)で。だんだんLabVIEWつかったシステムが増えてきましたね。


Results

 短いんだからお前らじぶんでちゃんと読めよ。


Discussion

「他者の行動観察ニューロン」であることの傍証あつめとして、棄却されるべき可能性ひとつめ。報酬期待ではない。じぶんがやっても相手がやっても報酬はもらえるから。ふたつめ。ただの「動く手観察ニューロン」ではない。その理由として、ActorのときもObserverのときも、お互いの行動を見ているからっていうのだけれど。もしそれが正しかったらじぶんが行動するときも発火するはず、ってことかな。じぶんが行動してるときも、非顕性の注意が相手に向けられているかもだけど、それなら……って、ええと何? みっつめ。従来の知見から推測されるような運動抑制ニューロンではない。そうだったらじぶんが運動するときは抑制されるはず。ってちょっと弱い気が……と思ったら他の論文でもおなじロジックが使われてるなどという。


Supplemental Discussion

 Partner-typeの細胞は、他者のゴール志向的な運動情報を表現し、じぶん自身の行動を正しくおこなうために必要な情報を供しているのであって、相手の手の動きの空間パラメータを単純に反映してるわけじゃない。というのは、相手の手がターゲットを押したあとスタートボタンに戻るとき("return" movement)や自由に動いているときには応答しないのだし、およそ四割の細胞活動は相手の行動の正否に影響された(発火頻度がふえたりへったりした)ので。とはいえ、相手の運動力学的パラメータ(トルクや速度)の何と関連しているのかは今後詳細に検討されるべきだし、ミラーニューロンとの対比もおもしろい。あと、色選択的な細胞は5%もないだとか、近年ヒトやサルで報告されている、他者の運動を見てるときとじぶんが運動するときで興奮/抑制応答が逆になる(観察時はじぶんの余計な運動を抑えている?)ミラーニューロンとの関係とか。

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 ソーシャルか。ソーシャルなー。情動の話しくらいにめんどくさいなー。2010年SfNでの報告をいくつか。

 藤井さんとか中原さんとか。サル線条体尾状核と社会ランク(Dominance)。ヒトとサルのえさのとりあい。報酬期待を表現してるのとはべつの細胞群が“dominant state”を反映した応答を示すっていう。“おれがおれが”ニューロンていうか。

 わたなべさんの。えっと、どのワタナベさんだっけ。サル対サル、ヒト、コンピュータで例のインベーダーゲーム課題、ACC記録。隣で他のサルが見てるだけって条件も。ていうかそろそろまとまらないんすかねこの仕事。

 はーティティザルかわいい。

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 あといろいろ。

 サル腹側運動前野(弓状溝のすぐうしろ)、脳幹刺激でアンチドロミックに同定した(!)錐体路細胞のミラーな活動。運動観察のあいだ、じぶんの運動をおさえる?

 ヒトの(!)ミラーニューロン電極記録。手の動きの他にも、笑顔を見て笑顔をつくったりする。“Self-type”はここにもいますね

 リゾラッティ、さいきんのミラーニューロン事情。パーソナルスペースの中と外の運動観察で活動がちがうやつもいる

 ACCまわりリージョン。「サルの社会的評価における前帯状回の役割」

 fMRIツープラトンや! 信用ゲームで相手の意志決定に関連するACCの活動

 「サルの内側前頭皮質による自動的活動から調節的行動への切換え」。記録部位はこれとおなじ

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 フサオマキザルもかわいいですね!

Caruana et al. "Emotional and Social Behaviors Elicited by Electrical Stimulation of the Insula in the Macaque Monkey." (Curr Biol. 2011)

 いいなーこういうイタリアぽい仕事! Fig.2Cのおサルの顔が、上下で微妙にちがってるところもいい。

 島皮質の前のほうを刺激すると嫌悪の情動応答(食べもの捨てたり吐きだしたり)が、まんなかのほうだと親和性反応(目を見つめると口をもぐもぐ)をひきおこす。単純な研究だって読み捨てる向きもあるかもだけど、情動のマーカーを欲しがってるひとはすごく多いはずなので、こういうのけっこう大事だとおもいます。SCRとかEEGとかだけじゃ困るんですよ!

Feinstein JS, Tranel D et al. “The human amygdala and the induction and experience of fear” (Curr Biol. 2011)

 ヘビつかませたりこわい映画(『リング』とか『ブレアウィッチ』とか)みせたり、有名なおばけ屋敷(Waverly Hills Sanatorium、しかもハロウィーンの時期に!)につれてったり、あの手この手で怖がらせようとしてるところがおもしろいです。

 ウルバッハ−ビーテ病で両側の扁桃体が損傷しているSMさん(44歳女性)は恐怖しない。むしろ通常以上に興味をひかれているような行動をとる。

 恐怖の情動表出には扁桃体をバイパスする系もあって、それに、下流にある視床下部やPAG(中脳水道周囲灰白質)を直接刺激すれば扁桃体がなくても大丈夫かもってところも興味ぶかいです。

“New Light on the Brain”

 よくわかるオプトジェネティクス(光遺伝学)のしくみとこれから。ていうかダイセロスさん、超ドヤ顔……。

 一神経細胞単位、ミリ秒単位でニューロンいじれるのってすげーべんり、たとえばパーキンソン病の症状を緩和するのに、脳深部刺激(DBS)とかするよりずっといいし。スパイク活動はもちろんLFPだって操作できちゃう。でもわかんないことはわかんないし、サルやヒトに応用するには、免疫反応とか、いろいろ障害もあるだろね、っていう。だからお医者さんらしく、"Before treatments, we need understanding."ってゆってるわけです。でもドヤ顔。

 こないだの学会でも、霊長類に適用するために、たくさん情報だしてます。チェネルロドプシン(ChR2)やハロロドプシン(eNpHR)をアデノ随伴ウイルス(AAV)でうちこんで、ラットみたく操作できる。トレーニングプログラムなんかもやってるらしいし、積極的にオープンにしてく姿勢はよいですね。でもドヤ顔。

 伊佐研。ハロロドプシンをレンチウイルスベクターでサルM1に注入。手が動かなくなりました。

 アーキロドプシン(Arch)をサル皮質にレンチウイルスベクターで注入。ラットと同様、100%落とせました。

 こちらはマーモセットで。順行性・逆行性にはららくAAVを使えば、線条体に入れてドーパミン細胞もいじれちゃう。

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あとはねずみの。

 利根川研。マウスドーパミン細胞でChR2発現。光でスパイク起こせました。

 ルイコスタ。マウス線条体の介在細胞選択的に、ChR2をAAVで。

 もうローデントだと山のようにあるなー。皮質のほうはフォローしきれないけれど、まあこんなもんだろ、ふむ(ドヤ顔)。

Morrison SE, Salzman CD "Re-valuing the amygdala" (Curr Opin Neurobiol. 2010)

 扁桃体の話しをつづけます。きょうはザルツマン研の動向、いまとこれから。

 齧歯類と霊長類の報告をきっちり分けて書いてるレビュー。扁桃体の活動はよく興奮性(Arousal: calm - excited)の文脈で捉えられてきたけれども、価値(Valence: negative - positive)のものさしで測ってみてもいいんじゃないの、特に霊長類は皮質との連絡も太いのだし(だからサルにおいては条件付けされた恐怖反応は、扁桃体を破壊しても影響を受けない)、という説きおこしから、状態価値(State-value)を表現してるんじゃないかっていう、けっこうざっくりとした結論に着地する。まあ、悪くいえばいいかげんなまとめかたなのだけど、どうしてそうなるかっていうと、相反する報告がけっこうあって、まだまだ固まってないことがおおいから。だいたい、おととい紹介したロッシュのレビューともいってることがちがうのだし。

 結果が一致しないのは、実験パラダイムが複雑になってきたってこともあるし、特に破壊/損傷実験だと、昔の報告ではリージョンが不十分だったりやりすぎてたりするわけです。ざっと読んでみて、早い学習、しかも行動(回避とか価値にもとづいた選択とか)に関係した活動ってかんじかなあ。あとヒトfMRIの報告で、フレーム効果(おなじものを利潤でみるか損失でみるか)が活動に影響するってのがおもしろい。

 んで、それとからめて何を考えているのかっていうと、前脳基底部(BF: basal forbrain)や前頭眼野(OFC)、また線条体とのかかわりで、

 非コリン性のBF細胞は報酬/嫌悪によらない、符号なしのSalience表現がみられるので大事なんじゃないって書いてるし、

 扁桃体線条体のダンス(BLA→腹側被殻)についてのコメントもあったりして、

 今年のSfNでも、サルに報酬/無報酬/罰のサッケード課題やらせて、扁桃体とBFから同時記録、扁桃体がCSへの注意バイアス、BFがvigilanceだってゆってる。あと、

 逆転学習課題してるサルの扁桃体とOFCから、LFPも同時記録、報酬にもとづく学習にかんする活動はOFCが、嫌悪にもどつくのは扁桃体で先におこるっていう報告も。皮質からのトップダウン的な注意のコントロール仮説に挑むかたち。

 扁桃体みてるだけだと手詰まり感があるのだろうね。ドパミン(DA)や青斑核(LC)にだって報酬と嫌悪どちらにたいする応答もあるのだし、じゃあそれぞれ何がちがうの? ってのがみんな知りたいとこなんだろうなー。

 *

 ところで“Valence”はひとによって発音がバレンスだったりベイランスだったりするのでこまります。“Salience”もサリエンスなのかセイリエンスなのかわかんないので、どっちかに統一してほしい。

Roesch et al. “All That Glitters ... Dissociating Attention and Outcome Expectancy From Prediction Errors Signals” (JNP. 2010)

 扁桃体が知りたい。まずショーエンバウム研とマレー研から。

 光るものすべて誤差ならず。扁桃体の予測誤差ぽい活動は、ドパミンが表現するようなものじゃない。てことを最近のじぶんとこの仕事

 なんかを踏まえてレビューしてます。こないだのSfNでも、

 VTAのドパミン系を6-OHDAで障害させてもBLAの活動は変化しない、つまりreinforcemant-relatedな処理とcue-related(attention)な処理はべつべつなんじゃないかっていう。ていうかBLAとかABLとか、ひとによって略しかたがちがうので困ります。マレーさん関係の論文はOFCもPFoとかいうし。何かちがうのかな?

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 おいアミダロイズいつのまにかiTunesAmazonでも配信してんぞ。